文学フリマから起こす革命—オンライン申し込みとWebカタログ

文学フリマから起こす革命—オンライン申し込みとWebカタログ

オンライン申し込みとWebカタログの標準化

ほんのひと昔前まで、同人誌即売会の世界は郵便での申し込みが当たり前でした。業界のデファクトスタンダードであるコミックマーケットのオンライン申し込み導入が2006年夏と遅かったため、世間のインターネットの浸透とは乖離していた時期もありましたが、近年ではオンライン申し込みが主流となっています。また、一昨年ごろから法人系のイベントを中心にWebカタログが導入されるようになり、イベント開催までの手続きや情報発信はほぼインターネット上で完結できるような状況となってきました。

文学フリマは2003年の第二回からWebでの申し込みを受け付けていましたが、2013年秋の第十七回文学フリマで申し込みシステムを「文学フリマWebカタログ+エントリー」という形で刷新し、申し込み受付とWebカタログを一体化したサービスとして参加者に提供をはじめました。

まず参加申し込みはアカウント登録制となり、一度情報を登録すれば前回の情報を引き継いで申し込むことが可能になりました。申込者の情報もあとからの修正が可能となり、引っ越しで住所やメールアドレスが変わっても自分で編集ができます。また、申し込みを受ける主催者側から見ても、参加費の支払い状況やキャンセルなどの情報を瞬時に確認でき、メールの一斉配信にも対応しています。それ以外にも問い合わせ受付、合体配置の受付と変更、DTP用データや発送用データのエクスポート、カテゴリ(ジャンル)の編集や配置の半自動化など、必要な機能が集約されています。

さらにWebカタログについても格段に進歩しました。各サークルに個別のURLが割り当てられたことで、SNSと連携して容易に告知が可能となりました。出店者はカタログの情報を随時更新することが可能で、最新情報や新作の書影、紹介文を追加することができます。文学フリマはもともと冊子のカタログを無料で配布するという独自の運営方針をとっていましたが、このWebカタログもすべて無料で公開しています。そのため新しいWebカタログは出店者だけでなく一般の読者にとっても有益で、検索やジャンル毎の並び替えはもちろんのこと、アカウントを作ればお気に入りリストを作成したり、訪問済みのチェックをつけることも可能です。いまや必須となったスマートフォンでの閲覧にも対応しました。デザイン的な派手さはないものの、質実剛健なWebカタログを提供していると自負しています。

そして、この「Webカタログ+エントリー」システムは、さらなる機能拡張も予定しています。じつは今回(2014年春)の申し込みにおいて、一部の参加者にご協力いただきPayPalを利用したクレジットカード決済による参加費支払いの運用を行いました。次回の申し込みでは正式にすべての出店者がクレジットカードによる決済を利用可能となる予定です。これにより、システム上は他の法人主催の同人誌即売会にも劣らないものになると思います。

複数イベントに対応する汎用的なシステム

元来は紙の本の(しかも《文学》の)イベントである文学フリマが、このようなインターネット上のシステムに注力していることを訝しむ方も多いかもしれません。これには確固たる理由があります。

「Webカタログ+エントリー」システムは、9月の「第二回文学フリマ大阪」の出店者申し込みにも利用されます。「大阪」は第二回より東京の文学フリマ事務局ではなく、地元の有志からなる大阪事務局によって開催されますが、申し込みとWebカタログは既存のシステムを共用します。「Webカタログ+エントリー」システムは複数のイベントでも使用できるように作られており、「第二回大阪」はこのシステムの汎用性を示す実例となるわけです。

これは非常に重要な意味を持っています。文学フリマが地方へと開催地を広げていくには、核となる地元有志の存在が不可欠です。しかし、そういった人たちがイベントを立ち上げるにあたって作業的にも予算的にもネックとなるのが「申し込み受付作業」であり「WEBカタログの提供」です。東京の文学フリマ事務局が申し込み受付とWEBカタログを汎用的なシステムとして提供できれば、経験は少なくても情熱はあるという地方の有志が新しいイベントを立ち上げるハードルが格段に下がるはずです。

もちろん、このシステムを利用して開催されるイベントは「文学フリマ」でなくとも構いません。最初に「オンライン申し込みやWebカタログが主流になりつつある」と書きましたが、それはあくまでも法人系主催の大規模イベントでの話。多くの中小規模の同人誌即売会は現在でも簡易なメールフォームで申し込みを受け付け、配置番号とサークル名だけのリストをWebカタログとして公開しています。規模が100サークル以下の同人誌即売会は数え切れないほど存在しますが、そういったイベントがコミケと同じ受付やWebカタログのシステムを利用するのは予算的に不可能であり、それぞれの主催者によるほぼ手作業に近いような事務処理によって運営されているのが実状でしょう。

中小イベントを支える柱として

ここ数年で主要な大規模イベントが申し込みシステムやWebカタログの効率化を横並びで進めているため、その利便性を参加者が当たり前に感じつつあります。中小イベントの個人主催者はその流れに対応できないため、無理な運営を強いられ、結果として参加者が離れていくことになるかもしれません。Webカタログが不十分で、スマートフォンやSNS連携にも対応できないイベントは、新規の参加者の獲得ができず先細りしていくであろうことは容易に予測できます。ただでさえ若者が減っている地方は、より事態が深刻かもしれません。このままでは、いずれ中小規模のイベントは存続が難しくなるでしょう。大規模イベントの傘下に入って開催するプチオンリー(ヤドカリイベント)が盛んになっているのは、その兆候ではないでしょうか。プチオンリーが悪いとは言いませんが、それが主流となってしまったら、小規模イベントは地方では開催されないことになります。

また、今年に入りいくつかの法人系のイベントが、中小の同人誌即売会では常識である「入場時のカタログ購入制」をやめ、「入場チケット購入制」に舵を切りました。カタログの印刷はコスト面で負担が大きく、入場者数が見込みを下回ればカタログを印刷した分だけ赤字を計上するリスクがあります。そこで情報提供はWebカタログをメインとし、入場者からはリスクのないチケット販売で収益を得るモデルに転換しているのです。

しかし、これも充実したWebカタログを用意できない主催には不可能なやり方です。Webカタログを作れなければ、コストの増大する紙のカタログを印刷し、赤字のリスクを覚悟で販売していくやり方をいつまでも続けなくてはいけません。これが原因で苦境に立たされる中小イベントも出てくるでしょう。

文学フリマの「Webカタログ+エントリー」システムはそんな中小規模のイベントの危機的状況を解消したいという意図で作られました。このシステムはすでに文学フリマという650サークル規模のイベントを処理した運用実績があります。これにより100サークル以下の小規模イベントでは得がたいノウハウを作り上げてきたと同時に、大型イベントとは違う細やかな対応を想定した改良を重ねています。

イベントを主催している方、そしてこれからイベントを主催してみたいと思っている方、ぜひこのシステムに相乗りしてください。システムの管理に経費は発生しているのでタダとはいきませんが、同人誌即売会の“現実的な予算”で使えるシステムです(なにしろカタログ無料配布、入場無料の「文学フリマ」が利用しているのです)。

そしてなにより、「地方で文学フリマを開催してみたいけど自分たちには無理だ」とあきらめている人たちへ。文学フリマ事務局は申し込み作業とWebカタログの作成を行うこのシステムを提供することができます。ぜひあきらめずに私たちへ相談してください。

そもそも「同人のイベント」とは中小規模のイベントが全国でたくさん開催されて、独特の文化を培っていくものだと考えます。大規模イベントへの一極集中は、文化にとっては豊穣な大地とは呼べません。中小規模のイベントが盛り上がらなければ地方にまで熱を届けることはできないし、いつまで経ってもコミケの落選率は下がらないでしょう。「Webカタログ+エントリー」システムは文学フリマから同じ中小のイベントへ贈るメッセージであり、大規模イベントへ仕掛ける革命なのです。

(文・文学フリマ事務局)
※初出・2014年5月5日「第十八回文学フリマカタログ」